2022-04-24 14:49:08 +05:30

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辰砂色の古い崖には、鮮やかな花も咲いている。
黒い血が溢れるこの時代に、わずかな穢れにも染まっていない。
千岩牢固、揺るぎない。たとえ暗色の妖魔を前にしてもである。
沈黙を貫く山民と鉄色の明月が、彼らのため静寂な陣地を築いてくれた。
「岩々と琉璃晶砂の娘よ。どうか私のために泣かないでくれ」
「天衡の影に生まれし私は、岩王の恩恵に報いるため戦う」
「四臂夜叉に命を託し、蛍光の深淵へと向かおう」
「暗く深い洞窟の影の道、浮遊する険しき岩宮の晶石」
「湧き出す深淵の汚れし流れ、山の底に伏す歪みし妖魔」
「どんな恐怖や奇異も、私の心を怯ませはしない」
夜風が千岩軍の兵士を遮り、彼に別れの言葉を言わせなかった。
忘却の証として山民の娘に残されたのは、この小さな花だけ。
「私が恐れる唯一のことは、忘れ去られることである」
「もし厄運が私を無名の地に埋めようとも、どうか私のことを忘れないでくれ」