2022-04-24 14:49:08 +05:30

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Plaintext

—第一折·魚水縁—
生:範皆
旦:梓心
婆:張ばあ
『第一場』
(梓心出場)
(語)
梓心:潮は遠くの山々を反映し、そよ風は緑の岩礁をなでる。
(話)
梓心:私は漁家の娘、名を梓心と申します。埠頭で生まれ育ち今年で十六の歳を迎えました。
梓心:しかし、両親が年をとった今、私がここを引き継ぐしかありませんでした。
(東塘揺櫂)
梓心:泳ぐ魚をこうして網で捕まえては、生活の足しにしています。
(網を引く)
(東塘連江)
梓心:家計を立てるのは難しく、飢えや凍えにも耐え忍ぶ必要があります。
梓心:高値のお着物も羨ましいのですが、この腕にある腕輪で今は十分満足しています。
梓心:家に飾れる花もなく、今はお金を稼ぐことで精一杯。
(縄を結び、岸に上がる)
(東塘散櫂)
梓心:街で魚を売りに行く時間です。
(梓心退場)
『第二場』
(梓心出場)
(東塘導櫂)
梓心:魚はいかがでしょうか。
(張ばあ出場)
(数櫂)
張ばあ:生きがいい魚だね。今晩出汁にでもするかのぉ。
張ばあ:こんないい魚のだし汁、この婆も少しは若返るかね。
(話)
梓心:奥様、お名前を聞いても?
張ばあ:張じゃよ。この街で、花を売っておる。
張ばあ:娘よ、そんな小さな声じゃ、日が暮れても魚は売れんじゃろ。
張ばあ:こんな綺麗な娘にゃあ、大声を出す度量もないじゃろう。それじゃあ金にはならん。
(梓心、下を向く)
(話)
梓心:ご冗談を。
梓心:あれ、こ、これ…
張ばあ:どうしたんじゃ?
梓心:普段腕につけている腕輪がありません。一体どうすれば?
(範皆出場)
(東塘原櫂)
範皆:金の光が波上で揺らぎ、拾えば美しい腕輪と気づく。
(話)
範皆:小生、埠頭で生計を立てている者。兄弟たちのおかげで、ここの統領となった。
範皆:今日は腕輪を一つ拾った。見たところ若い娘のもの。
範皆:返したいのは山々だが、悪人に騙されては元も子もない。
範皆:腕に跡があるか見てから決めることにする。
(東塘二六)
範皆:こんな暑い日は、魚と酒が一番合う。
梓心:ここの魚は新鮮で、どんな調理にも使えます。
範皆:虎を食う魚が一番いい、その魚がどんなものか。
範皆:前に来て見せてくれ。
(梓心前に)
範皆:やはり美しい方には上品な装飾品がお似合いだ。
(東塘連江)
梓心:お客さん、言ってることも分かりませんし、少し強引なのでは。
梓心:もう結構です。
梓心:礼儀をわきまえてください。
(話)
範皆:お嬢さん落ち着いて、さっきお嬢さんの腕に腕輪の跡が見えた。
範皆:この腕輪はきっとお嬢さんのもの。今お返ししよう。
範皆:私、名を範…
(口をおさえ、範皆振り向く)
範皆:いえ、私はこれで。
(話)
梓心:お待ちを——
(東塘揺櫂)
梓心:私の勘違いで嫌な思いを、お恥ずかしい。
梓心:あの方のお名前を聞いて、後日礼を言わなければ。
(話)
梓心:困りました。
張ばあ:これが縁というやつじゃの。美しい娘には、いい男がつくもんじゃ。