2022-04-24 14:49:08 +05:30

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フィンドニールの祭司の娘がこの白の樹の下で誕生したとき、
祝福と共に、緑豊かな山脈の国は喜びに満ちた。
シャール·フィンドニールの幸福は永遠に、
大地をまたぐ枯れることのない銀白の樹のように——
だれもがそう、思っていた。
かつて無数の人や事柄を見てきた記録者ですら、
姫の美貌と才徳は月の光のように清らかに輝く…
しかし世界を凍らす鋭釘が突如降り、
この樹さえも粉々に砕かれた時、
あの少女は一本の枝を持っていった、
この国を覆い隠す樹の命をつなぎとめるために。
しかし結局、それも叶わぬ夢となった。
刃のように冷たい吹雪は、月の明かりを遮ってしまった…
それから長い月日が経った遥か昔——
漆黒の龍と風の龍が命をかけて戦い、
腐植の血が灰のような山を赤に染めたとき、
樹は自身がまだ死んでいないと気づき、
貪欲なまでに、自らの根で大地の温かみに触れた。
誰かが穢れの無い緋紅のエキスを流し込んだ故、
当の昔に死んでいた白の樹は、過去を思い出し、
すべての力で、果実を実らせた…
我が守った者、我に祈りをささげた祭司、
我のそばで絵を描いていた美しい少女、
手にしたことのない幸せが、緋紅の果実となる。
悪の世界に正義をもたらすことができる者に、
「苦しみ」を乗り越えられる、正義を捧げよう。