2022-04-24 14:49:08 +05:30

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古来より辰砂色の輝きを放つ地「層岩巨淵」。
山奥の鉱夫と市井の宝石商人の間では、夜叉の伝説が今なお語り継がれている…
かつて、肩から四本の腕を生やした孤独な旅人が、天星の降った荒れ果てた地にやってきたという。
邪気を払うことのできる孤客がこの地へ来たと聞き、山奥に住む族人が大挙した。
「遠路遥々訪れし客人よ、どうか我々の酒を飲みながら、耳を傾けてほしい」
「熟成された山の酒は酸味が強く、飲みづらいかもしれない。きっと帝君が称賛した天衡山の美酒とは、比べ物にならないだろう」
「しかし、山民は天から授かりし奇石や玉を素晴らしき宝として大事にし、生計を立てるために険しい岩壁を削ってきた」
「望み通りの生活とはいかないが、帝君の優しさにより、とても快適で平穏に過ごせている」
「ただ状況は以前と異なり、天星の恩恵は漆黒の影に阻まれてしまった」
「我々は今、契約を結ぶための高尚な祭礼を用意できない。それでも、あなたに救いを求めるために参じた」
客は長老たちの訴えを黙って聞き、手にした盃に入っている苦い酒を黙って飲み干した。
そして、何の約束をすることも人々の無礼を咎めることもなく、引き留められるのを無視してそのまま東へと引き返した。
その後の話は、今はもう誰もが知っている…
山民と交わした素朴な晶砂の盃も、契約を結んだ証として残されている。