2022-04-24 14:49:08 +05:30

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「張りし弓は弦月の如く、研がれた刃は透き通る玉璧の如し」
鳴神が降りてきた日、刀の鍛造法を伝えたと言われている。幾千の星霜と、何百もの豊穣を経て、凡人の刀工は鳴神様の寵愛を受けられるほどの宝刀を鍛造できるようになった。そこで、大社と幕府は神事としてある祭礼を定めた——この世でもっとも素晴らしい名刀を大社に奉納し、その名を「御神刀」とすると。刀を奉納する祭りはとても賑やかなもので、今も廃れることなく続いている。だが、「御神刀」の裏に隠された数々の出来事を知る者はそれほど多くないだろう。
とある名工が刀を鍛える際、必ず一振り以上の刀を打つ。その中でもっとも出来の良い物を「真打」として選び、主君や神へと奉納した。それは殺生に用いられないため、清浄を保ったままであった。残りは「影打」と呼ばれ、武器として近臣に与えられた。血によってしばし汚れるため、その多くは穢れに染まっている。
大御所が稲妻の地に降り立ってから、「鳴神権現·初代将軍」は妹をそばに置いていた。眞と影、表と裏にいる二人は朝廷を斡旋し、戦場で戦った。その妹は「ゑい」という名であり、文字に起こせばおそらく初代将軍の名と対になる「影」という字になるだろう。その者こそが第二代幕府「影将軍」である。
周知の通り、俗世を席巻したあの大戦では、七神のみしか残ることができなかった。影将軍は神業のような武芸と無双の剣術を誇っていたが、自分はあくまでも武人であり、人の心を理解できないと思っていた。そのため、彼女は自ら命を絶ち、姉が「天上の京」へと赴き、稲妻を泰平するのを後押ししたのだ。そうして、「眞」将軍は幕府を開き、稲妻を治めることとなる。旧情を想った鳴神権現は、「影」の神識を呼び戻し、身体を作り直すと「影武者」として彼女を御側付きとして置いた。