2022-04-24 14:49:08 +05:30

25 lines
1.2 KiB
Plaintext

「遠海の嵐より、卒業できないことのほうが怖いだろう……」
稲妻行きの船の上で、若いハマヴァラーンはそう思った。
「早く論文を完成させないと、卒業が遅れると考えているでしょ」
よく知る声が船の外から聞こえた。
「うるさい、君は誰だ!」
「私か……それは重要なことかい?」
「そうだね、確かに重要ではない……」
「ちょっと——」
……
そうして、激しく揺れる嵐の中で、舷窓の外の小さな声と口論を続けた。嵐への不安も、論文への恐怖も、どうでもよくなった。
ただ……陸に上がるまで、あの舷窓越しの声は二度と現れなかった。
「遭難者の幽霊か何かだろう……」
ハマヴァラーンは自分に言い聞かせた。
幽霊とは、地脈の持つ死者の記憶だ。過去と今の共振でしかない。海に現れたのは少々不可解だが、まったく説明がつかないわけれもない。
「誰が幽霊だよ——!」
ハマヴァラーンが荷物を手にして、自分の妄想を解釈した時、あの声がまた聞こえた。