2022-04-24 14:49:08 +05:30

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——無妄——
軽策山北にある山々の間に「無妄の丘」と呼ばれる山脈がある。そこはどこか不気味で、多くの言い伝えがある場所。
璃月人によれば、無妄の丘の森林には死した人の魂がさまよっているという。村の周囲を漂い、生前の執念が未だ拭いきれていない魂たちは、訪れる人間を危険な山道に引き付け…崖に落とし、魔物に喰らわせる。
山を覆う霧のような邪気は、悪意と共に旅人に纏わりつく。無垢な人々を陥れ、理不尽な咎めを与える——それが、「無妄」の由来。
無垢な民と旅人は魂たちに惹きつけられ、霧が漂う危険な森林に立ち入る。無妄の丘に潜む妖鬼は人々の心の弱みにつけこむことができ、思い人に化け、信じるものを見せ、亡くなった家族の温かみを与える。そうした様々な手段を使って人々を山の奥へ誘うのだ。
しかし無妄の丘はなにもずっとこうだったのではない。遠くない昔、そこにはまだ人が住んでいた。そして遥か昔まで遡れば、そこは賑やかで平和な村だった。だが今となっては、陰湿な魂だけが住まう廃墟となってしまった。
軽策荘の子供たちの間で、こんなうわさがある——無妄の丘に住む若者は遥か遠くの海に潜む海獣の歌に誘惑され、幻想と夢を抱きながら碧水川に飛び込み、その身を波に沈めた。やがて彼らは記憶のすべてを忘れ…彼らの幻想と夢は海獣の歌となったという。
そこの少年たちは皆そうやって離れていった。やがて大人たちも老いにより人の世を旅立ち、その村は岩王帝君が住む大港城の影に潜む廃墟となった。
しかし短命な人間とは違い、永遠の時を進む地脈はすべてを覚えている。湧き出る元素は霊体となり、かつての住民の夢を取り戻すように彼らの面影を再現する。そんな無垢で純粋な地脈は、まるで子供を失った母親。泣きわめく赤ん坊、老人の咳払い、すべての瞬間を再現した劇とも言えるそれは、海獣の歌のように、その地に訪れた人を惹きつける。