2022-04-24 14:49:08 +05:30

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軽策山の竹林の夜はいつも余所より早くやってきた。
銀色の月は竹の葉でいくつの欠片に切り裂けられいた。蛙と蝉の音が静まって、銀色の月光が照らす場所に、何本の筍が生えてきた。
軽策山の竹林には、あらゆる形の化け狐の物語が伝わっていた。
夜に入って頃、白衣の女は少年に物語を語った。女の物語は古話ばかりだったが、少年は聞いたことがなかった。
「昔々、夜空には三つの月がかけていた。三姉妹だった月たちは、岩神より長い寿命と、璃月港より古い誕生日を持っていた。
「月たちは詩と歌の娘であり、月夜の君王であった。彼女たちは銀色の車で巡行し、一旬回ると次の姉妹に王位を譲った。大災禍がくるまで、三姉妹はこうして統治を続けた。
「三つの月には同じ恋人がいた。司晨の星である。夜が朝に変わる瞬間、姉妹の一人は消えゆく星を突き抜けて、晨星の宮殿へやってくる。そして、朝日が昇るとまた匆々に車に乗って去った。
「三姉妹は互いを愛するように、唯一の恋人を同じくらい愛した。もちろん、大災禍が訪れる前の話しだけど。
「大災禍は君王の車も、晨星の宮殿も全部壊した。三姉妹は死別してしまい、残された枯れた屍は、冷たい光を放ちた……」
女は面を上げ、竹の葉から月を見た。細長い首は銀色に染められ、金色の瞳はキラキラした。
「狼は月の子だ。狼の群れはまだ大災禍とその悽愴さを覚えている。だから満月になると、母のために泣くんだ……そして狼と生きる子たちは月の生き残った恋人——晨星を慟星と称する。」
「そうか……」
少年は言葉をなくした。
それは村の年寄りから聞いたことのない物語であった。もしかすると、年寄りたちもまだ知らない物語かもしれない。それは狐の嫁入りより壮大で、岩王には勝らない物語だった。それは一晩見た綺麗な夢のようだった。
「これは現実じゃない、ただ人に忘れられた伝説さ。」
白衣の女は少年の髪を軽く撫でた。伏せた目から見える黄金色も少し暗くなった。
「仙祖が全てを一つにまとめる前、数多の神が大地にいた、仙人たちも含めて。ではその前は?」
「断片の記憶は、物語を伝え、その物語はやがて伝説となる…」
「たとえ仙人と神でも、この俗世を越えた記憶を聞くと悲しむだろう。」
女はため息を吐いた。すると隣の少年がすでに眠っていることに気づいた。
「まったく……」
致し方なく笑って、女は蓑を脱いで彼にかけてあげた。
その夜に、少年は三つの月が昇る夜空と、車が泊まる星の宮殿の夢を見た。