—第三折·二矢珠— 生:範皆 旦:梓心 婆:張ばあ 浄:呉旺 丑:呉一、呉二 『第一場』 (範皆、梓心、両端から出場) (語) 範皆:早朝は犬が活気良く吠える。 梓心:日照は屋根の雪を薄めます。 (話) 範皆:もしかして梓心か? 梓心:はい、範皆さんだったのですね。 (東塘散櫂) 範皆:昨晩は夢の中で愛する人と会っていた。 梓心:別れの時は悲しいけれど、またお会いできました。 二人:願い事が叶った。 (話、声を揃えて) 梓心:範皆… 範皆:梓心… (話) 範皆:朝日が海面に昇り、埠頭の作業が始まる。私は仕事に行かなければ。 範皆:梓心、私は先に行く。 (梓心、範皆を見送る。範皆、遠くで振り向く。梓心、頭を上げ下げし、範皆退場。梓心、手を胸に交わす。) (東塘揺櫂) 梓心:別れの時は思いが湧き出てしまいます。 (梓心退場) 『第二場』 (緑の服を着た呉旺、呉一と呉二を連れ歩く) (語) 呉旺:俺様は呉旺だ、この町の頭みたいなもんさ。 呉旺:今日は退屈だから、町に遊びに来た。 (話) 呉旺:呉一、呉二! (共に話す) 二人:はい! (話) 呉旺:何か新鮮な物が食いたいな。 呉一:エビのポテト包み揚げはいかがですか? 呉旺:豪華の食いもんは飽きたから、たまにはそういうのも良さそうだな。 呉旺:呉二、エビのポテト包み揚げが売ってる、いい店を探しに行くぞ。 呉二:かしこまりました。 呉旺:ただ、揚げ加減は重要だぞ。少しでも黒焦げになったやつは要らないからな。 呉二:黒焦げは要らないっと、はい、メモしておきました。 呉旺:そして、大きさは均一じゃないとダメだ。大きかったり小さかったりするのは—— 呉二:大きさは均一っと、はい、これも覚えておきました。 呉旺:よし。 呉二:他に何かご要望がありましたら、遠慮せず言ってください。 呉二:もしあの店が下手くそだったら、いつものやり方で—— 呉一:いつものって? 呉二:モラを渡さない。 呉旺:それ、今回はなしだ。あの魚屋を見てみろ、べっぴんさんが居るぞ。 (東塘揺櫂) 呉旺:まず状況を訊ねてみよう、運が良ければ彼女が手に入る。 (呉旺、梓心へ顔を向ける) (話) 梓心:お客さん、新鮮なお魚はいかがですか? 呉旺:ほぅ、どれどれ。お嬢ちゃんどこの人?ご両親は? 梓心:私は幼い頃からこの港町で育ちました。両親が年を取ったので、家族を養うためここで魚を売っています。 梓心:なぜこんなことを聞くのですか? (後ろへ向き、独り言を言う) 呉旺:よしよし。両親が傍にいない今こそ良いチャンスだ。 (梓心へ顔を向ける) 呉旺:じゃあ、俺のお嫁さんになってくれないか? 梓心:ええっ、私はずっと仕事で忙しく、そのようなことは考えた事もありません。 梓心:それに、魚を買うのとあまり関係ない気がしますが。 (後ろへ向き、独り言を言う) 呉旺:よっしゃ。男がいないんだな。さらっても誰も助けに来やしない。 (梓心へ顔を向ける) 呉旺:好きな男はいるのか? (梓心、下を向いて沈黙) (東塘散櫂) 呉旺:あの様子だと、きっと好きな奴がいるんだな。 呉旺:野郎ども、このべっぴんさんをさらうぞ。 (呉旺、呉一、呉二、梓心をさらって退場) 『第三場』 (張ばあ出場) (話) 張ばあ:雲菫の芝居をよくご覧になっている方なら、この後の進展も大体予想がつくじゃろう。 張ばあ:この後は他でもなく、激しい戦闘になってしまうのじゃ。 張ばあ:大英雄の誕生も、ちょいときっかけを与えんとなぁ。 張ばあ:悪さをする悪獣は、人の生活を混乱させ、平和の風を乱す。だがその無秩序こそ、英雄を作り出すきっかけになるのじゃ。 張ばあ:雄々しい勢いで事を沈ませれば、歴史に名前を残せる。だが、もしそこで逃げたら… 張ばあ:張皆だの王皆だの範皆だの、誰も名を覚えてくれんじゃろう。 張ばあ:ましてや、ただでさえ強い男が美女を救う話は人気があるんじゃ。 張ばあ:とにかく、範皆がどう出るか拝見するとしよう。 (範皆出場) (話) 張ばあ:おい、遅かったじゃないか! 張ばあ:梓心がここの有名な不良に連れ去られたぞ! (東塘快櫂) 範皆:まさか——そんな—— 範皆:状況を知った私は驚きと怒りを隠せなかった、まさかこんな事件が起こるとは。 範皆:悪党にとって強盗殺戮など何でもあり得る。もしこの私が行ったら… 範皆:生きて帰れないかもしれない。 (張ばあ、腕輪を範皆へ渡す) 張ばあ:範皆よ、ど、どうすればいいんじゃ? (東塘快櫂) 範皆:腕輪を目にした時、決意を決めた—— 範皆:か弱い女性が悪党に勝てるわけがない。 範皆:腕輪を手に、剣を抜いた。あの呉旺と言う奴を、コテンパンに懲らしめてやる。 (呉旺、張ばあ退場)