ある英傑が層岩巨淵のもっとも高い崖に立ち、空を飛ぶ鷹の羽を手にしたという伝説がある。 また言い伝えによると、この偉業を成し遂げた才ある者は、仙人と肩を並べて死地に赴く資格があるそうだ。 「民衆を守り、何かを求めるため死地へ赴くのは良きことだ」 「だがよく考えてみれば、これは深き淵に潜む魚、幽谷へ堕ちる鳥のようなものである」 「己の想いは叶うが、成し遂げたことは皆に知られず、やがて忘れ去られてしまう」 「我々のような凡人は、竜巻に運ばれた羽のように、深空に散って落ちていく」 「救済も堅守も、いずれも無駄で意味のないこと」 不気味な囁きが、名を残すことのできない人々の心を静かに揺さぶる… だが、やがて戦塵は収まった。多くの兵士が岩穴の奥深くで眠りに落ちる。 漆黒の軍勢が放つ気味の悪い咆哮も、波紋が収まるかのように静かなっていた… たとえ人間の過ごす歳月は短くとも、大地はそのすべてを記憶していく。