剣による風圧で散った黒い羽が舞う中、剣豪になる人間が、 遂に長年触れることのできなかった天狗の少女を捕まえた…… 「いやはや、危なかった。さすがだね」 「剣が君の力に耐えきれなかったのね」 「そうでなかったら、私は死んでいただろう。さて……」 光代、来年の決闘は、場所を変えるか? 緋色の櫻が舞う場所なら、いつくか知っているのだが…… 自分が壊した社を見回し、天狗の震える手を握りながら、 切り落した黒い羽を見つめて、道啓はそう言おうとした。 「私に触れたのだから、君の勝ちだね」 勝負はまだ決まっていない、来年また会おう。そう言おうとした。 「君の剣は天狗よりも速くなった」 「十三年間、君と戦う日々を、私はずっと忘れない」 「でも私は影向の天狗だ。一族を背負わなければならない」 「当初君の名を変えたのは、君を鬼の血の呪いから解放したかったから」 「人ならざるものの血筋は、あの戦の後、どんどん薄れてきている」 「まあ、私たち人ならざるものは、人並みの幸せを求めてはいけない。でも君は違う」 「今の君は『岩蔵』、鬼の血を背負う御輿ではない」 「じゃあ、さようなら、道啓。私を忘れて。そして君の剣で」 「岩蔵の血筋のために、岩蔵のためだけの道を切り拓いて」