我流の秘剣「天狗抄」で、岩蔵道啓は九条家の剣術指南役になった。 「道胤」の号を授かり、自身の剣術流派を作り上げた。一時期門下生が絶えなかったという。 九条の屋敷に就任する前に、道啓はすでに酒を嗜んでいた。 最後に、秘剣「天狗抄」の完成で廃墟となった社に踏み入れた。 十三年の間、何度も影向の天狗と真剣勝負をした場所で、 ここで「影向の光代」と名乗った黒い翼の天狗と出会った時のことを思い出した。 夢のような十三年 櫻吹雪のように舞い 気が付いたら、君がいない あの頃の神櫻も雪のように舞い降りた。 社も祀る神がいないだけで、建物は健在だった。 泉のような軽快な笑い声が谷間に響いた。 だが、廃墟となった庭に、二人は二度と戻らないだろう。