——百億の世界と百億の昼夜—— 「たまに思うけど、この町つまらなすぎじゃない?」 デルポイに住む少女ヴィーラはまたつぶやいた。町の近くにある丘の斜面に横になった彼女は、目を瞑って初夏のそよ風を感じている。 「じゃ、どこならつまらなくない?」隣りにいる彼女の友達、少年サッチが問いかける。 ヴィーラは前屈をするような姿勢で上体を起こした。 「この星の海の向こうに、きっともう一つの星があると思う。そこにはすべての祈りと願いに応えてくれる神様がいて、願いを持つ人は神様のところへ向かうの。あと宇宙のどこかに世界の終わりと戦う星があって、その星には14名の戦乙女がいるって信じてる。彼女たちの美しく崇高な魂が儚く燃えているのよ……」 「君、変な小説を読みすぎだよ」 「ああああっ……ここって本当につまんない。何か面白いことないかな?」 「そう言えば、最近町に引っ越してきた人がいるけど……」 「そういう事じゃない!」 とは言え、ヴィーラはその人に挨拶しにいこうと思った。サッチは門限の事を思い出し、夕飯前に自宅へ帰ることにした。 …… ヴィーラは新しい住民の家の扉をそっと開ける。鍵はかかっていなかった。 「誰かいませんか?」 と、その時、突然リビングにある戸棚の影からメガネをかけた黒髪の少年が飛び出してきた。そして、彼と共に青い粘液を纏った触手も姿を現す。 「くっ、通すか——! おい、タール、どうして勝手に人を入れたんだ?」 黒髪の少年はヴィーラを軽く押しのけ、ドア近くにあった斧を持ち上げた。 「仕方ない、見られた以上はこうするしか——」 ヴィーラ、人生最大の危機か!?