なぜなら、以前ここで惨事が起き、日誌も回収できなくなったからだ。 考察の記録を失うのは手痛いが、環境が危険すぎる。 結局、我々はその大きな扉を開けることはできなかった。 壁画も、エンゲルベルトの旦那が期待していた古代の武器も、最後は水の泡となった。 雪山の日向の拠点に戻っても、吹雪の中見失った仲間はそこにはいなかった。 …希望は薄いが、彼らが無事山を下り、補給品と救援を呼んでくれることを祈るしかない。 我々の物資はもうほとんど尽きた。 不運なことに、密室の円型大扉の前で起きた崩落が、ニックと彼に預けていた燃料や食料を全て奪った。 遺跡を探索する時は、構造の整合性を確かめてから進めとあれほど言ったのに… この数日に起きた出来事が私をこんなにも冷徹に変えてしまったのかもしれない。 これが絶望の下にいる人間なのだ。 だからこそエバハート坊ちゃまはさすがだ。こんなことになっても、冷静を保っている。これが本物の貴族というものだろう。 ランドリッヒの旦那の目に狂いはなかった。 隠し子とはいえ、彼は一族の名を背負っていける人だ。 我々は吹雪が少し収まるのを待ってから、エバハート坊ちゃまの提案通りに、南西部の遺跡の地下に行く。 彼の読みでは、あそこには遥か昔に残された物が眠っている可能性があるという。 普通なら信じられないが、この極寒の環境なら、物資を保存できるのも納得だ。 もういない仲間たちのためにも、必ず成し遂げなければ。 …もちろんランドリッヒの旦那の期待のためにも。 そうでなければ、私は闘技場で魔物と会うことになるだろう。 魔物に勝っても、エバハート坊ちゃまの老僕のように、ローレンス家の赤髪の死神の剣に倒れるだろう…